「2000年、パフィーは米国テキサス州で行われたロック・フェスティバルSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に出演した。これは、有望な新人を売り込むショーケース・ギグに類する催しであり、ソニーが擁する日本人アーティストの米国進出のテスト・ケースとして、「本場」のアーティストには見られない個性を持ち、競合を避けられるパフィー達が送り込まれたのである。このSXSWで手応えを掴んだパフィーは、2002年に は初の北米ツアーを行い、ソニーの現地レーベルとカナダのBar/None Recordsから、『SPIKE』の現地版と、ベスト盤である『An Illustrated History Of Puffy AmiYumi』を発表し、一定の評価を得た。2004年には、ツアーを通じてカートゥーン・ネットワークの重役がパフィーの存在を知った事から、同局の『Teen Titans』の主題歌を担当、更にパフィーをモデルにしたアニメ『Hi Hi Puffy AmiYumi』 が制作され、全米で放送された。この番組は低年齢層から高い支持を得て、CN開局以来の高視聴率を記録した。 (Wikipedia)」
2002年「An Illustrated History Of Puffy AmiYumi」は、2曲以外は日本語。「That's The Way It Is/Kore ga Watashi no Ikirumichi」「Electric Beach Fever/Nagisa ni Matsuwaru Et Cetera」など、有名どころが並んでいる。
上記Wikipediaで参考になるところとしては、
・競合を避けるポジションをまず選んだ。Sonyとしては、アーティストありきでなく、米国でいけそうなアーティストとしてパフィーを選んだ。松田聖子がアメリカ進出したいからと、その方法をあれこれ考えるよりは、手持ちのアーティストの中からいけそうな人を選ぶ方が、はるかに自由度が高い。
・いきなりレコード発売等でなく、場所的にもまず限定されたところから始めた。感触を見るという点では、このようなイベントは良かった。だめならCD出す必要もないし。つまりアーティストの選定も含めて、CD出すまではいつでも引き返せる状態で感触を見ている。もしかしたら同イベントには、別の日本人アーティストも試しで参加していたかも知れない(感触良くなかったから出たと言っていないだけで)。
・英語で歌うことを前提としていない(何かを伝えようとしていないとも言えるのか。むしろその無欲さというか、気の抜けっぷりがかえって良かったのか)。
で、これだけでは分からないので、米国Amazonにおける、上記CDへのCustomer Reviewを読んでみよう。「Puffy AmiYumi set the standards of great music」「Puffy Amiyumi are Yummy Yummy!」「Pure Pop Heaven」などタイトルが並んでいるが、その下のコメントをざっと総合するとこんな感じになる;
・曲によって「あ、これはビートルズ」「これはthe Who」みたいなところは皆分かっている。
・彼女らが楽器も演奏せず、自分で曲も作らず、だいたいユニゾンで歌っていることも分かっている(まあそれは誰でも聴けば分かるが)。
・もちろん、日本語で歌っているので歌詞の内容を分かりながら聴いているわけではない。歌詞サイトには英訳詞もあるが、たいした内容ではない。それを言ったら日本語の内容も「どうすんじゃい」的なものが多いが(止まり木にあのハリソンフォード)。歌詞の内容についてのコメントは、Amazonには無いと言って良い。
・がしかし、その雑食的なところをむしろ楽しんで聴いている。オリジナリティがないというコメントもあるが、それよりはそういう様々な要素を取り込んでまとめ、曲としての、あるいはアルバムとしての完成度を高めているところを楽しんで聴いている人が多いようだ。で、曲がともかくキャッチーだといろんな人が言う。
歌詞の内容はさほど気にせず、曲そのものを楽しむ - なんだ、自分がPaffyの音楽を聴くのと全然変わらないじゃないか。言葉の壁があるのに、日米間で聴き方が変わらない。言語の違いを飛び越えて音楽を楽しめる。これはちょっと驚き。しかし、それが歌なんだ、音楽なんだとも言える。なんと、アメリカで成功するのに、英語を完璧に歌えることは必須ではなかったのだ。
・・・このあたりは、Paffyを米国に送ることを決めたソニーの作戦勝ちのような気がしている。
・こういう元ネタがある音楽は「ああ、あれね」みたいな感じで、オリジナルだけで勝負する純日本的なJ-POPよりも英語圏の人には耳あたりがよい。ドリカムが切々と歌うより、はじめの引っかかりは遙かに多いはず。
・歌詞に強いメッセージが無い、と言い切ったら失礼かも知れないが、さくっと聞ける内容。一生懸命英訳しなくても、音楽そのものを楽しめる。きっとテキサスのイベントでも、英語では歌ってなかったと思う。その方がいいものが伝わるとPuffy側は分かっていた(たぶん)。その後出したCDだって日本語メイン。彼女らの音楽を、英語で伝える必要はなかったのだろう。米国のPuffyファンも、「英語で歌ってくれ!」なんて期待はしていないのでは。ソニーの「この2人はいけそう」に、「英語を喋れる」というのは入ってなかったのだろうな。
・脱力系のデュオというのが今まで米国になかった。J.Loにせよビヨンセにせよ、みんなナイスバディでセクスィーな人たち。彼女らはフェアウエイ上の人たちだが、それにしてもPuffyみたいなのは、ま、確かにいなかったよな・・・。知らないだけかも知れないが。
・そうは言いつつも、アメリカの子ども向け番組とか見るとPowerpuff Girlsとか、Kim Possibleとか、iCarlyなんかもそうだが、みんな脱力している。運命に逆らって努力したり、自分の大切な何かを犠牲にして友を助けたりしてない。そういうアメリカの番組と、Puffyの脱力系キャラはものすごく親和性が高かったのではないかと思う。
と、つらつら考えるに、米国におけるPuffyの成功は、チャレンジというよりは、遙かに確度の高いトライだった、と言ってもいいのではないだろうか。まさか自分たちのアニメができて全米で放送されるとまでは考えていなかったとは思うが、かなり手応えをつかんでのCD発売だったろうと思う。このあたり、2016調査でももう少しヒアリングしたかったが、時間が足りなかった。引き続き話をしてみたいところである。
で、先ほど、SXSWにはPuffy以外にも別のアーティストがトライしていたかも、と書いたが、誰がトライしていたのか、調査してみた。SXSW2000には970のアーティストが参加していたが、SXSWサイトにもリストがなく、個人のサイト等から分かる限りは以下(&その時のレーベル);
Mummy the Peepshow (Benten Label)
Dr. Strangelove(ポニーキャニオン)
Number Girl(東EMI)
Spoozys(Jetset Records)
Lolita No.18(日本クラウン)
Original Love (ポニーキャニオン)
Polysics(DECKREC RECORDS)
Tomovsky(dohb discs)
Love Love Straw(インディペンデント)
Puffy(EPIC)
FEED(PSC)
VELTPUNCH(テイチク)
Rika Shinohara(インディペンデント)
SUPERCAR(dohb discs)
ソニーからはPuffyしか参加してなかった。もっといろいろ参加していると思ったのだが、そうでもなかった。逆に言うと「これはいけるだろ」と出してみた、ということかな。
ところで、2010年に聞いた米人2人に言わせると、ドリカムとか宇多田とかはおいといて、一番我慢できないのは日本の街角で流れている日本語の歌に混じって流れる英語の歌詞なのだそうだ。次回は、そのあたりを詳しく二人に聴いてみたいと思う。